ジェラルディン・マコックラン『世界のはての少年』~なんとかしてこの運命からのがれられる

人生には、予測もしない問題に直面することが何度もある。たいていの問題は何とかなるものだが、ごくまれに、どうにもできない、何が起こっているのかもわからない、解決策もない問題が起こる。手も足も出ない絶望的な状況に直面した時、私たちはどうやってそれを乗り越えたらいいのだろうか。この本には、そんな時のヒントがある。

海外で評価の高いベストセラー作品より、10代にもおすすめの本を紹介します。

本の紹介

スコットランド最西端に位置するセント・キルダ諸島。その中で最も大きいのはヒルタ島は、あとがきによると、瘦せた土地は樹木が生えず、海は常に荒れていて漁に向かない。セント・キルダ諸島の中で、唯一、人が住んでいた島でもある。島民は毎年夏になると離れ岩へ向かい、海鳥を収穫して、壁肉や羽根や油を売って生計を立てていた。1930年に住民全体が避難をして、現在は無人島になっている。

ある年の8月、今年もヒルタ島から海鳥の集まる小さな孤島へと猟のための船が出た。乗組員は9人の少年たちと3人の大人。最年長のクイリアムと親友のマード、それから、ケネス、カラム、ラクラン、ジョン、ユアン、ニール、ディヴィッド、校長のファリス先生、ドーナル・ドン、それからコル・ケイン(教会の墓堀男)←このケインが曲者で超問題児

一歩足を踏み間違えたらケガでは済まない危険と隣り合わせ断崖絶壁に立ち向かい、岩肌をのぼり、カツオドリの群れに飛び込んでいく。鳥の猟に出て帰ってくるたびに、少年たちは大人に近づいていく。ここでは、島へ渡り鳥を捕まえるこの旅が、一人前の大人になるための通過儀礼なのだ。猟は順調に進み、少年たちは十分な鳥を捕まえることができた。ところが約束の期間を過ぎても、迎えの船はやってこなかった。

なぜ迎えが来ないのか。これまでこんなことは一度もなかった。島になにかあったのだろうか。やがて、夏が終わり海鳥たちはまた次の土地へと渡ってゆく。いつ迎えはくるのか。あるいはこのまま…。最悪の事態を想像して不安は大きくなるが、彼らにできることはない。ただ迎えを待つことだけ。なんという孤独。自分なら耐えられるだろうか。

食べるものも雨をしのぐ場所もある、生き延びるための最低限はある。しかし、それだけでは人間らしい生活は難しいことをこの小説は物語る。日々大きくなる不安を抑えることはできず、みんな不安に心を蝕まれていく。そんな中、希望を失わず、年長者としてみんなを支えるのがクイリアムだ。

何もない孤島で、クイリアムを励まし、クイリアムがみんなに与えた希望の源は想像力であった。

なすすべのない不安を打ち消すのに、想像力が与える力は大きい。クイリアムは小さな子たちの不安をとりのぞくために、物語を語り聞かせた。お話を聞こうとクイリアムの前に集まった子どもたちは、その物語に耳をすます。

どうやら落ち着いてきたようだ、とクイリアムは思う。全速力で破滅へと向かっていたみんなの思考が、昔なつかしい物語のリズムを耳にして崖っぷちの手前でふりかえり、歩をゆるめて静止した。

想像力が生み出すのは、何も新しい発明ばかりではない。想像力から生まれた物語は、不安をとりのぞき、人を癒し、安心と勇気を与える。物語にはそういう力がある。そして、私たちは希望を想像する力がある。

この物語は、実話をベースにしている。1927年の夏、8人の少年と3人の男がヒルタ島から戦士の岩と呼ばれるアーミンという離れ岩に渡り、そこに9か月間置き去りにされた。この事件の詳細について、当時の記録はほとんど残っていない。彼らが、どんな風にしてこの過酷で孤独な環境を生き延びたのか、本人たちの言葉から知ることができない。ここに描かれているように、知恵と勇気と想像力を持って、協力し合い乗り越えたに違いない、と小説を読み終わった後には思う。

草も生えない岩ばかりの島が舞台だが、情景の描写がとても豊かなのもこの小説の読みどころ。過酷で、心がすり減るような状況にありながら、時間の流れが止まっているかのように緩やかな時間の流れを感じる。ひとつひとつの景色味わうように、じっくりと読んでみて欲しい。

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東京創元社
ジェラルディン・マコックラン (著), 杉田 七重 (翻訳)

出版社 ‏ : ‎ 東京創元社
発売日 ‏ : ‎ 2019/9/20
単行本 ‏ : ‎ 320ページ

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