『竹林はるか遠くー日本人少女ヨーコの戦争体験記』

  • 【BOOKS雨だれ】中学生におすすめ50冊!
  • 11歳の少女による引揚げ体験をつづったノンフィクション
  • 海外で教科書に採用されている本

戦争がいかに悲惨で無意味であるか、どんな時も勇気をもって逞しく生きる強さを物語る、11歳の少女の引揚体験を綴った自伝的小説。

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本の紹介

一九四五年、七月二十九日の真夜中のことであった。母と姉の好(こう)と私は
、持てるだけの荷物を背負って、竹林の中にある私たちの家や、友人たちに永遠の輪k㋹を告げて朝鮮北部の羅南(ラナン)から脱出した。

第二次世界大戦終戦の直前、擁子はそのとき11歳だった。

羅南は、満州国境から八十キロ離れた朝鮮北部に位置している古い町。擁子の父は満州鉄道に勤務しており、擁子はこの町で生まれた日本人である。擁子の父は満州鉄道で働いており、不在なことも多いが、暮らしに不自由はない。母、兄・淑世、姉・好(コウ)と擁子とで、竹林のある家で和やかに暮らしていた。

しかし、一九四五年七月にポツダム宣言が発令され、ソ連が連合軍に加わると、状況は大きく変わる。いつソ連に攻め込まれてもおかしくない危険から逃れるため、朝鮮北部に暮らす日本人が南へ移動をはじめる。38度線を越えて、目指す先は釜山から日本へ。

これは、11歳の少女が体験した朝鮮半島からの脱出の記録と、帰国後、過酷な状況を逞しく生き抜いた日々をありのままにつづった自伝的小説である。

単行本の帯には「愛と涙のサバイバルストーリー」と書かれているが、二流映画の謳い文句のような安っぽいキャッチフレーズは添えないでもらいたい。

燃え落ちる貨物列車から飛び降り、死んだ朝鮮兵から脱がせた軍服を身につけ、頭を丸坊主にすることを余儀なくされ、ゴミ箱から残飯をかき集める。惨めさや痛みを麻痺させてただ必死に行く先を目指す。

息継ぐ間もなく、一難去らないうちに次の難が襲いかかる。ひとときも休まることがない不安と恐怖の連続に追い立てられるように、読み進める手が止まらない。

土を噛むような苦い思いをいくつも乗り越えて、家族は日本へ戻ることができたが、安堵したのも束の間、日本での暮らしも易しいものではなかった。

印象的なシーンがある。京都の駅で寝泊まりしていた擁子と好が、はじめて市電を見た朝の場面。

電車はチンチンとベルを鳴らして、動き出した。降りた人は元気良く駅の中へ歩いて行った。彼らは素敵な服を着て私たちの目の前を通り過ぎた。
「仕事に行くんだろうね」
好が言った。彼らは私たちとは別世界の人だった。
駅の中には、私たちのような引揚者の他、こじき、負傷兵、すり、孤児、売春婦などがいて、ここで生活しているというのに、ほんの少ししか離れていないところでは、帰る家のある人々がきちんとした身なりをして、平和そうに仕事に出かけていくのだ。(P143)

10代の少女たちに突き付けられる理想と現実、胸を掴まれる。辛いのは過酷な状況ではなく、過酷な現実のすぐ隣に、だれかの恵まれた暮らしがあり、手に届きそうでいて、自分たちは「別」なのだと現実を突き付けられること。

8月15日、ポツダム宣言を受理し、第二次世界大戦は終わる。しかし、戦争の終わりが苦しみの終わりではない。守られた中からでは見えづらいものもも、この本は語っている。

朝鮮からの引き揚げも日本に戻ってからの暮らしも、辛く悲しい体験が多く語られるが、その中にあって、時おり出てくる、人のあたたかさにふれるエピソードに心が緩む。

どんなときも、人としての優しさを忘れずにいたい。

悲しく辛い日々にあっても、支え合いながら、命を守り、生き抜くたくましさをこの本は物語る。

本をチェックする

アメリカで中学生の副読本としても採用。
中学生・高校生に読んでほしいノンフィクション。

出版社 ‏ : ‎ ハート出版
発売日 ‏ : ‎ 2013/7/11
ハードカバー ‏ : ‎ 236ページ

☆続編

続・竹林はるか遠く―兄と姉とヨーコの戦後物語

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