『神谷美恵子 ハンセン病患者と歩んだ命の道程』

神谷美恵子
  • 【BOOKS雨だれ】中学生におすすめ50冊
  • ハンセン病患者の心を支えた医師・神谷美恵子の物語。
  • 人権・福祉について考える読書感想文にもおすすめの本

瀬戸内海に浮かぶ小さな島・長島。ここには、ふたつの国立ハンセン病療養施設がある。

長島愛生園は、1930年に日本で最初に設立されたハンセン病療養所だ。

療養所には現在も200名ほどの方が暮らし、事務本館は長島愛生園歴史館として公開され、ハンセン病の歴史を知り人権問題について考える場としていまも多くの人が訪れる。

日本において、ハンセン病の歴史は悲しみの歴史といえる。かつて、ハンセン病患者は間違った知識による偏見と差別に置かれ、故郷や家族から遠く離れた島で隔離されていたそうだ。心に傷を負い、生きる希望を失っていた人たちがたくさんいた。そんな人々の人々の心のケアに取り組んだひとりの医師がいた。

ハンセン病患者の心の痛みを支える

ハンセン病は、末梢神経が麻痺する病気である。感染病だが、その感染力は弱く、現在は特効薬プロミンのおかげで完治することができる。この病気の怖いところは、神経の麻痺により痛みを感じないことだ。怪我や火傷の症状が重症化し、失明や手足や顔に変形の跡が残る。そのことで、偏見や差別につながりやすかったのだろう。

当時、国は「県からハンセン病をなくすこと」を目的とした取り組みを広げ、人々はハンセン病に対する差別を強めていった。ハンセン病患者は、遠く離れた療養施設へと強制的に連れていかれる。家族にハンセン病患者がいることがわかると、追い詰められて、一家で命を断つこともあったという。それほどに偏見や差別が耐えがたいものだった。すべては、ハンセン病という病気について正しい知識を持たなかったことが原因といえる。

こうした偏見や差別に心が傷つき、精神の病を抱えるハンセン病患者も少なくなかった。精神病を患った人は療養所内でもさらに差別を受け、適切な治療を受けることもできなかった。ハンセン病患者の心のケアのために島へ治療に出向こうという精神科医がいなかったからだ。

神谷美恵子は、それまで見向きされることのなかったハンセン病患者の心の病と合い、彼らの治療に取り組んだ女性医師である。患者の声に静かに耳を傾け、ひとりの人間として向き合うその姿に、多くの患者が心を開き、抱えていた孤独を癒したという。

生きがいとは

戦後、特効薬が使えるようになりハンセン病は治る病気となった。しかし、一度貼られた偏見と差別のレッテルは、簡単には消えなかった。そんな社会背景の中で、ふたりの子の母でもある神谷美恵子が、ハンセン病患者の治療のために定期的に療養所へ通うことは、決して容易なことではなかったはず。

それほどまでに献身的にハンセン病と向き合おうとする彼女の心を動かしたものは何だったのか。

彼女の生まれは恵まれたものであったが、常に孤独や悲しみがあり、満たされないものを抱えていた。一度は生きる希望を失い、社会から切り離されたように感じた経験をもつ美恵子は、社会から不当に疎外されているハンセン病の姿に、自身の経験を重ねる。彼らの抱える深い喪失感や孤独の苦しみに寄り添うことが、自分にとっての生きる意味=生きがいなのだと認識する。

神谷美恵子は、精神科医だけでなく作家として著書を出版している。『生きがいについて』『人間をみつめて』『こころの旅』など、いずれもハンセン病患者と触れ合い感じたこと考えたことをまとめている。生きる意味とはなにか。誰かに必要とされること、そして、誰のために何ができるか考え、できる一歩を踏み出すこと。生きる意味こそが、絶望や孤独から自分を救う。

「なぜわたしは生きるのだろうか」

「生きる意味がわからない」

そんな悩みにぶつかる人は、少なくない。みな、あるがままに生きればよい、と神谷美恵子はいう。抜け出せない孤独の中に迷い込んでいる人に、ぜひ手に取ってほしい。

本をチェックする

大谷美和子さんの『神谷美恵子 ハンセン病と歩んだ命の道程』は、読書感想文にもおすすめです。小学校高学年から読める文章ですが、ハンセン病の偏見や差別の歴史を深く理解できる中学生から高校生に読んで考えて欲しい1冊です。

続けて読みたい人へ

ハンセン病について直接話を聞く機会はあまりないと思います。ハンセン病についてもっと知りたい人におすすめの本をいくつか紹介します。

知ることは大切なことです。これをきっかけに読書の幅を広げてみませんか。

■ハンセン病についての本■



■神谷美恵子さんの著書■



もっといろんな本を読んでみたいという人には、ノンフィクションがおすすめです。