ジャン・ジオノ『木を植えた男』~荒れ地をたったひとりでよみがえらせる

ジャン・ジオノ『木を植えた男』

10代におすすめしたい世界の名作より、今回は、ジャン・ジオノ『木を植えた男』を紹介します。

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  • なにかを成し遂げたい人、仕事に迷う人にもおすすめです
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世の中には人知れず、見返りも求めず、ただ世界を美しくするための行動を静かに続けているような人たちがいる。道端のゴミ拾いや掃除をしたり、近所の子どもたちの帰宅時間に合わせて散歩しながら、ひっそりとパトロールをしたり。だれにでもできそうなことだが、こうした行動を続けるのは、なかなか難しい。現に、わたしは、そうした人たちに憧れながら、思いつきの行動ばかりで続けることは難しい。

バーバラ・クーニーの「ルピナスさん―小さなおばあさんのお話」にも、おじいさんとの約束を守り、世界を美しくするための仕事をしたおばあさんが登場する。「世界を美しくする」なんてすてきな言葉だろうか。

名誉も報酬も求めない、ただ自分の仕事として世界を美しくする仕事を継続する。この本に登場するエルゼアール・ブラィエのように、あるいはルピナスさんのように。

いつか、わたしにもそんなことができたらいいいなと思う。

本の紹介

1930年代、ひとりの若者が、南フランス・プロヴァンス地方を旅していた。旅人も歩かぬような古い山道をたどると、どこまでいっても草木もまばらな荒野が広がっていた。寂れた廃墟を見つけるが、人の気配も水もない、、若者は土地にくらすひとりの羊飼いの男と出会う。

翌朝、男についていくと、男は荒れ地にどんぐりの実を埋めていた。

乾いた大地に穴をあけ、穴の中にどんぐりを一つ一つ埋め込んでは、ていねいに土をかぶせる。彼はカシワの木を植えていたのだ。

年月は流れ、若者はふたたび、ふたたび、あの荒れた廃墟のへと向かった。そこで若者が見たものは…。

孤独であったことがこれほどまでの執念ともいえるほどの情熱を駆り立てたのかもしれないが、自分にとって意味のある仕事を信念をもって続けること。それは、とても容易なことではない。

若者が荒れ地で老人と出会ったシーンに、こんな文章がある。
「まったく不毛なこの地にあって、かれはまさに秘められた泉のような存在だった。」
この本もまた、わたしたちの心の渇きを潤す泉のような、希望と清々しさを与えてくれる物語だ。

木を植えた男は実在したか?

この本の主人公は旅先で、荒れ地にどんぐりを植えていく男と出会う。人間の可能性や希望の物語である。

この本を読み終えて、これは物語だろうか、それとも実在した人物のノンフィクションだろうかと、疑問をもつ。

この本には、物語としての魅力と現実に起こりそうな説得力があり、フィクションなのかノンフィクションなのかわからない曖昧さも魅力のひとつである。中高生におすすめしたいポイントでもある。

図書館ユーザーであれば、この本に936の請求記号が付いているので、これは物語だと読む前に気づく。わたしもはじめて手に取ったのは、学校図書館の本だったので、当然、創作物として読んだ。

果たして、物語に登場する男「エルゼアール・ブラィエ」は実在するのだろうか?

実は、この本には、その答えとなるおもしろいエピソードがある。

この作品は、ジャン・ジオノがアメリカの出版社から依頼を受けて書かれたもので、テーマは「これまでに出会った、いちばん忘れがたい人物」について。そうして出来上がったのが、この作品である。編集者はこの人物が実在したのかどうかを調べた。編集者が注目したのは、物語の終わりに書かれたこの文章。

「一九四七年、エルゼアール・ブラィエはバノンの養老院において、やすらかにその生涯を閉じた」

編集者の調査では、そのような事実は証明されなかった。

実在の人物についての原稿を依頼した出版社は、約束と違うとこの原稿をジオノに送り返す。その後、ジオノはこの作品の著作権を放棄し広く公開したところ、この作品が「ヴォーグ誌」の目に留まる。1954年ヴォーグ誌に掲載されたことをきっかけに、この作品は世界中で読まれることになる。

現在では20か国語以上に翻訳され、フレデリック・バックによってアニメーション映画化もされている。

ぜひこの物語にまつわるエピソードはあとがきにも記載されているので、合わせてお読みください。

フランス文学作家・ジャン・ジオノ

1895年、フランスプロヴァンス地方マノスク生まれの小説家・詩人・劇作家。1929年、小説『丘陵』(Colline,ブレンターノ賞受賞)を出版。

16歳で銀行員として働き、1914年第一次世界大戦に出征。、第二次世界大戦中には、徴兵制度への反対運動で逮捕されるという経歴を持つ。

小さなどんぐりの実が森をつくり、町を潤すまでには、気の遠くなるような歳月が必要だ。戦争は一瞬でたくさんのものを奪うが、失ったものは簡単には取り戻せない。そんなメッセージも受け取れる。戦争に反対する強い姿勢は、この物語にも反映されているように読み取れる。

映画『河は呼んでいる』(監督・フランソワ・ヴィリエ)の脚本を担当。1953年、モナコ大賞受賞。1954年、アカデミー・ゴンクール会員に選ばれる。

映画原作

小学校高学年から大人にも、すべての世代におすすめです。中学生の国語教科書でも紹介されている作品で、朝読書におすすめです。

国語教科書で紹介

  • 三省堂中学2年生国語教科書
  • 東京書籍中学2年生国語教科書で紹介

アニメーション映画化

ジャン・ジオノの死後1987年にフレデリック・バックによってアニメーション映画化されました。アカデミー賞アニメーション短編映画賞ほか、多数受賞しています。

本をチェックする

木を植えた男
あすなろ書房
絵本です

イラスト:フレデリック バック 、翻訳:寺岡 襄
出版社 ‏ : ‎ あすなろ書房
発売日 ‏ : ‎ 1989/12/1
ボードブック ‏ : ‎ 47ページ

イラスト:黒井 健 、翻訳:寺岡 襄
出版社 ‏ : ‎ あすなろ書房
発売日 ‏ : ‎ 2015/10/31
単行本 ‏ : ‎ 80ページ

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