- 中学生が主人公の切ない青春ミステリー
- おすすめ文庫王国2013 (本の雑誌増刊)「第1回オリジナル文庫大賞BEST1」
本の紹介
困っているだれかを助けたいと思う。
しかしそれはただの「思い」でしかない。
『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』で、なぎさは社会で戦うためにお金という”実弾”が必要だと言った。お金は戦うための武器になる。
17歳でノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイが子どもたちに必要なものは「本とペン」だとスピーチで語った。本来、子どもには武器は必要ないはずなのだ。子どもたちは大人に守られる存在なのだから。子どもは大人に必要なものを与えられ守られて成長する(べきである)。
(べきである)としたのは、実際には、その役割が果たされない現実がすぐ身近にもあるから。
遠い国の話じゃない。
すぐとなりに、もしかしたらあなたのクラスの中にも。
キヨコは、自分では解決できない問題を抱えていた。
両親に捨てられ、祖母との貧しい暮らしだけが彼女を支えていた。危うい細い糸はいつ切れてもおかしくない。だれの同情もいらない。助けを求めるすべを知らない。
キヨコは、たったひとりですべての問題と孤独を抱えこんでいた。そんなキヨコが、クラスの中で浮いた存在として孤立していたのは必然だったのだろう。
「だれかに気づいてほしい」
「だれにも知られたくない」
矛盾する感情のなかで、ただじっと自分を守ることだけが、彼女にとっての戦いだったのかもしれない。
中2の夏の終わり、「僕」は横浜市のはずれの町へ引っ越してきた。4回も転校している僕は抜け目なく新しいクラスに溶け込む。「不良とイジメはダサイ」が学校のモットーで、表立ったいじめはない。その中で、孤立しているひとりの少女がいた。
彼女の名前は「キヨコ」。大人びて無表情のキヨコは、クラスメイトたちにはない美しさと強い影を持ち合わせていた。
なるほど「キヨコ」は決してイジメられているわけではない。むしろ自分からクラスメイトを突き放しているところがある。
助けを差し伸べようとする相手に「偽善者」と言い放つ。
「私にできることがあったら」という女の子に「じゃ、今すぐ体を売ってきて」とあっさり退ける。
「僕」は、そんな孤高でタフなこの少女「キヨコ」のことが気になり、尾行することに…。
一方、キヨコは誰も知られたくない秘密を抱えていた。
自分を知られたくない。
相手を知りたい。
自分を知って欲しい。
何度も出てくる「嫌い」と「好き」の短い言葉のやりとり。
心に留めておこうとしても、うまく隠しきれずに滲み出てしまう切ない想い。
育つ環境を選ぶことができない子どもたちは不幸なのか。
必要なのはそんな答えじゃなくて、生き抜く強さとしたたかさだ。
ちなみに、「キヨコ」は本当の名前ではなくて、あだ名。
なぜキヨコなのかは、本を読んでみて。
おすすめポイント(受賞歴など)
おすすめ文庫王国2013 (本の雑誌増刊)「第1回オリジナル文庫大賞BEST1」
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鮮やかなオレンジの表紙と短く心をとらえるタイトルに惹かれました。カバーイラストも物語の世界にぴったり。解説は、翻訳家の金原瑞人さん。読みたくなる要素しかない。
文庫: 344ページ
出版社: 集英社
発売日: 2012/10/19
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